歌舞伎座の11月公演は、毎年恒例の「吉例顔見世大歌舞伎(きちれいかおみせおおかぶき)」です。今年も昼夜にわたり、古典の名作から舞踊、新歌舞伎まで、歌舞伎の醍醐味を味わることのできる作品が並び、歌舞伎座の顔見世を彩ります。
※「顔見世」――江戸時代、芝居小屋は毎年11月に役者と一年の契約を結び、その顔ぶれをお披露目する「顔見世」を行いました。新たな一年が始まるため、11月を「芝居国の正月」とも呼びます。この伝統は現在でも息づき、10月は名古屋・御園座、11月は東京・歌舞伎座、12月は京都・南座で「顔見世」が行われています。
特に、今年の「吉例顔見世大歌舞伎」で話題となるのは、夜の部に上演が決定した『市松小僧の女』。時代小説の大家・池波正太郎が、歌舞伎のために書いた戯曲で、池波自身が演出も手掛けた数少ない歌舞伎作品のひとつです。
『市松小僧の女』――江戸・日本橋の大店の娘に生まれながら、女だてらに剣術の修業をする男勝りのお千代と、「市松小僧」という異名をとる年下のスリ・又吉との恋模様を描いた物語。
昭和52年2月歌舞伎座で、池波正太郎が作・演出を勤め、人間国宝の女方・七世尾上梅幸のお千代、池波の代表作「剣客商売」の主人公・秋山小兵衛のモデルとなった二世中村又五郎の市松小僧又吉という、錚々たる名優により上演された。
池波が信頼を寄せる二人に当てて書いたこの作品は、新作歌舞伎の優れた脚本に贈られる「大谷竹次郎賞」を受賞するなど、高い評価を得ましたが、その後、上演の機会がないまま、平成の世を過ぎ……。
遂に令和元年の11月、歌舞伎座の「吉例顔見世大歌舞伎」において、上演が決定しました!
まさに、池波正太郎の「幻の名作」といっても過言ではない『市松小僧の女』。
今回の上演では、歌舞伎座で数々の主演も勤める女方・中村時蔵がお千代を演じるのをはじめ、上方の大名跡を四代目として継ぐ中村鴈治郎の市松小僧又吉という充実の配役。映像でも活躍する中村芝翫の同心永井与五郎、先日人間国宝認定となった片岡秀太郎のおかねも揃い、演出は、人情の機微を細やかに描く大場正昭が担います。
いま甦る、池波正太郎の世界を――是非、客席で目撃してください!
また、中村吉右衛門主演の大ヒット時代劇「鬼平犯科帳」では、池波正太郎の短編小説「市松小僧始末」を取り入れ、平成6年の第5シリーズ第4話で放送。
腕っぷしの強い女が、すりの青年に恋に落ちてしまうという同じ設定の物語で、嶋屋の一人娘おまゆに女子プロレスラーの長与千種、スリの市松小僧又吉に落語家の春風亭小朝という配役が話題となりました。
――公演情報――
公演名 吉例顔見世大歌舞伎
公演日程 令和元年11月1日(金)初日~25日(月)千穐楽
会場 歌舞伎座 (〒104-0061 東京都中央区銀座4-12-15)
東京メトロ日比谷線・都営浅草線「東銀座」駅3番出口
【昼の部】 午前11時開演
一、研辰の討たれ
二、関三奴
三、梅雨小袖昔八丈 髪結新三
【夜の部】 午後4時30分開演
一、鬼一法眼三略巻 菊畑
二、連獅子
三、江戸女草紙 市松小僧の女
10月12日(土)10時より、電話予約・Web受付開始
◇チケットホン松竹(10:00-18:00)
ナビダイヤル0570-000-489 または 03-6745-0888
◇チケットWeb松竹(24時間受付、発売初日は10時より)
チケットWeb松竹 検索
※窓口販売・お引取りは、10月14日(月)午前10時より
※窓口販売用別枠でのお取置きはございません。
◇ご観劇料(税込)
1等席 18,000円/2等席 14,000円/3階A席 6,000円/3階B席 4,000円
1階桟敷席 20,000円 ※未就学児童は、満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です。
詳しい情報は、
◇歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」 http://www.kabuki-bito.jp
◇松竹ホームページ http://www.shociku.cp.jp
――出演者――
お千代 役
中村時蔵(なかむら・ときぞう)
昭和30年4月26日生まれ。
名優・三世時蔵を祖父に持つ。四世時蔵の長男。
叔父に萬屋錦之介、中村嘉葎雄。
弟は錦之助、いとこに歌六、又五郎、獅童がいる。
35年4月歌舞伎座で三代目中村梅枝を名乗り初舞台。
56年6月歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』お三輪ほかで五代目として時蔵を襲名。古風な味わいのある女方の一方、長年、人間国宝の当代・尾上菊五郎の相手役として粋な江戸の女を演じる。近年は、女方としては数少ない歌舞伎座で主演を勤める機会が増えている。屋号は萬屋。
市松小僧又吉 役
中村鴈治郎(なかむら・がんじろう)
昭和34年2月6日生まれ。
人間国宝・坂田藤十郎の長男。母は扇千景、弟は扇雀。
42年11月歌舞伎座で中村智太郎の本名を名乗り初舞台。
平成7年1月中座『封印切』亀屋忠兵衛ほかで五代目翫雀襲名。
27年1、2月大阪松竹座『吉田屋』藤屋伊左衛門ほかで、曾祖父や
祖父、父も名乗った上方の大名跡・中村鴈治郎を四代目として襲名。上方の芸を伝承しながら、若々しい役柄も自在にこなす。芸域の広さと柔軟な役者ぶりは当代独自の芸境がある。屋号は成駒家。
南町奉行同心永井与五郎 役
中村芝翫(なかむら・しかん)
昭和40年8月31日生まれ。
名女方・七世中村芝翫の次男。兄は福助。義兄に勘三郎。
45年5月国立劇場で中村幸二の本名を名乗り初舞台。
55年4月歌舞伎座で三代目橋之助襲名。
映画や大河ドラマ「毛利元就」に主演するなど、長年、橋之助の名で親しまれる。平成28年10、11月歌舞伎座『熊谷陣屋』熊谷直実ほかで、八代目として中村芝翫を襲名。屋号は成駒屋。
おかね 役
片岡秀太郎(かたおか・ひでたろう)
昭和16年9月13日生まれ。
人間国宝・十三代目片岡仁左衛門の次男。兄は我當、弟は仁左衛門。
21年10月南座で本名の片岡彦人を名乗り初舞台。
31年3月大阪歌舞伎座『河内山』浪路で二代目として片岡秀太郎を
襲名。上方歌舞伎の女方の第一人者として、舞台に出るだけでその風情を匂わせる。後進の指導にも力を入れ、上方歌舞伎を支える。今年、人間国宝を認定される。屋号は松嶋屋。